大いなる責任を背負う2人『スパイダーメン』



今日も様々な話題が飛び交うアメリカンコミックス界隈。そんな中で今年に入って大きな話題になったニュースの1つが、マーベルコミックスで長年ライターを務めていたブライアン・マイケル・ベンディスのDCコミックスへの電撃移籍でした。僕は普段マーベル作品をあまり読まないので、彼の作品も読んだことは無かったのですが、SNSなどの反響を見る限り、この移籍がかなりのビッグニュースだったことは明らかでした。

移籍後のベンディスはスーパーマンを手掛けることが発表され、現在週刊ミニシリーズとして『マン・オブ・スティール』誌が刊行されています。さらにその後はスーパーマン誌及び先日遂に記念すべき1000号へと到達したアクションコミックスの双方でライターを担当することが発表されており、スーパーマン関連タイトルを主導していくことになりそうです。

さらに、DCは7月から米大手スーパーマーケットチェーンであるウォルマートにて新旧様々な作品を収録した独自のアンソロジーを刊行するのですが、その内のバットマン系の作品を収録した『BATMAN GIANT』にて、ベンディスは全12話のオリジナルストーリーである『バットマン : ユニバース』を担当することも発表されています。

こうした待遇を見てみると、彼の作品を読んだことは無くとも、どれだけの大物であるのかは一目瞭然。僕もこれを機に彼のスーパーマン関連タイトルの購読を検討しています。

そんな僕にとっては非常にタイムリーな1冊が先週発売されました。それが『スパイダーメン』、噂のベンディスがライターを担当した作品です。



スパイダーメン (ShoPro Books)

ベンディスが担当した作品はこれまでも何冊か邦訳されているのですが、僕にとってはこれが初めてのベンディス作品でした。また、今作に登場するもう一人のスパイダーマンであるマイルズ・モラレスについても、日本では来年公開のアニメーション映画『スパイダーマン : スパイダーバース』で主役として登場することが明らかにされており、皆さんにとっても話題性十分なタイトルだと言えると思います。


とにもかくにも話題性に尽きない本作。早速紹介していきましょう。




今日もニューヨークを飛び回るピーター・パーカー。ある夜、街外れの倉庫から放たれる謎の光を発見したピーターは光源を突き止めるべく倉庫内へと潜入。そこにあったのは怪しげな装置と奇妙なコスチューム、そしてそれらの持ち主である宿敵ミステリオの姿でした。ミステリオとの闘いの最中、彼の放った銃弾が謎の装置に当たり装置は暴走。それによってピーターは光と共にどこかへとテレポートしてしまいます。
そこは見慣れたニューヨーク…のようで、どうやら少し違う世界。見たことも無い建造物が会場にそびえ、先程の倉庫の中はアパートに。そして一番の驚き、なんと街中の人々全員が自分の正体を知っている!
一体何が起きているのか?これは幻覚?突然の出来事に動揺するピーター。そこに1人の少年が現れます。そしてその姿はどうみてもスパイダーマンなのでした…

一体ピーターに何が起きたのか?実は今回、彼はミステリオの装置によって異世界「アース1610」、通称“アルティメット・ユニバース”に迷い込んでしまっていたのです。

ここでアルティメット・ユニバースの説明をしておかなければなりません。アルティメット・ユニバースとは、2000年にマーベルが立ち上げた新しいレーベルのこと。当時マーベルが経営危機を迎えていた90年代後半、自社の建て直しと共に低迷するコミック市場の活性化も目指して企画されたこの新しい世界は、これまでのマーベル・ユニバースに大胆なアレンジを加えてリセットしたもので、企画自体はDCコミックスの「NEW 52!」などと同じような内容でした。
ただしそれらと異なっていたのは、このアルティメット・ユニバースに加えて、これまでのマーベル・ユニバースも並行して進めていくという点。これまでのストーリーは継続されつつ、全く新しい世界も描かれるという、珍しい内容となっていました。

そしてこアルティメット・ユニバースの第1弾となったのがこの『アルティメット・スパイダーマン』であり、そのライターとしてマーベルに招かれたライターこそ、ブライアン・マイケル・ベンディスその人だったのです。彼はこれ以降人気ライターとして成長し、DCへと移籍する今年に至るまで、アルティメット・スパイダーマンに携わってきました。

アルティメット・ユニバースの特徴はキャラクターの若さや政治色の濃さ、死亡率の高さなど様々あるうですが、特にスパイダーマンで重要なのは、アルティメット・ユニバースにおいてはピーター・パーカーは敵との戦いで死亡しているという点。彼は英雄として称えられており、彼の遺志は13歳の少年マイルズ・モラレスに受け継がれ、2代目スパイダーマンとして街を守っています。
つまりこの世界において、ピーターは死んだはずの人間なのでした。

そんなピーターが街に現れてしまった…ピーターだけでなく、アルティメット・ユニバース側も動揺を隠せません。ピーターはシールドによって一時的に拘束され、その後事態の真相が明らかになるまでマイルズと共に行動するよう指示されます。
しかしそんな彼等を狙う魔の手が。それは元の世界のミステリオが送り込んできた遠隔操作型人造人間。実はミステリオはこれまでもこの人造人間を操ってアルティメット・ユニバースに干渉しており、死亡した方のピーターと戦ったこともありました。せっかく見つけたこの秘密の世界を邪魔させてたまるかと、すかさず手を打って来たのです。

果たしてピーターは元の世界に戻れるのか。そしてピーターとの出会いはマイルズに何をもたらすのか。時空を超えたタッグの物語が始まります。


本作の最大の見どころはこれまでの世界とは異なるアルティメット・ユニバースの世界観。読者はピーターと共にこの世界を追体験できるようになっており、たとえ予備知識が一切なくても楽しめる内容となっています。

個人的に感動したのはピーターがこの世界のメイおばさん、そしてこの世界では生きているグウェンと出会うシーン。はじめは信じてもらえないピーターでしたが、次第に打ち解けあっていきます。メイにとってピーターは今は亡き息子のような存在。別れの言葉もなく突然この世を去った彼の存在に、思わず涙を隠せず抱擁するシーンはこちらも涙を禁じ得ないシーンでした。
また、ピーターにとって、グウェンは救うことのできなかった最愛の恋人であり、彼が悔やんでも悔やみきれない後悔の1つ。グウェンから「向こうの世界の自分はどうしてるの?」と聞かれた際に見せる彼の表情は、事情を知っているこちらとしては何とも言えない気持ちになります。
その他にも、本作には元の世界とは違う様々な要素が存在。この世界のアベンジャーズであるアルティメッツとの共闘もあり、まさに夢の共演となっています。

そしてう1つの見どころはマイルズとピーターの関係性。まだまだ未熟でありながら、ピーターの遺志を継ぎ正義を守ろうとする彼にとって、元の世界のピーターは憧れの存在であり、様々な窮地を乗り越えてきた大先輩でもあります。お互いにとって未知なる存在でありながら、共に大いなる責任を背負って生きる2人、冒険の先に、彼等は何を見つけるのでしょうか。2人の成長からも目が離せません。


さて、ここまでご紹介してきた『スパイダーメン』、いかがでしたでしょうか。

創刊以降、元の世界とクロスオーバーすることはないと言われてきたアルティメット・ユニバースにとって、本作はそのルールが遂に破られた記念すべき作品でもあります。この後、色々あってアルティメット・ユニバースは消滅したり復活したりするのですが、その間マイルズはこれまでの記憶を保有した状態でピーター達の住む元の世界の住人として活動していくことになっているようで、今後もこの2人の活躍を見ることができそうです。

また、本作は僕にとって初ベンディス作品だったわけですが、素直に楽しむことができて個人的には大満足でした。彼の脚本の特徴は短い台詞の応酬にあると言われているようですが、本作でもその特徴は至る所で見られました。そのお陰か、スピーディーな展開で、話の緩急を巧みに表現しているように感じられました。
これから彼がどんなスーパーマンを描いていくのか非常に楽しみです。早速マン・オブ・スティール誌を読もうと思います!(もしかしたらブログで紹介するかもしれません!)

というわけで今回は『スパイダーメン』のご紹介でした。

それではまた次回!…と言いたいところなのですが、この後ShoProさんの公式サイトにてちょっとした(重要かも!?)お知らせがあります。後日こちらのブログでも発表しますので、詳細はまた後程!少しばかりお待ちください!

それではまた後程!

※一部本書解説書より引用









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